ビジネスを実現させるために、著名人やキーパーソンに協力を仰ぐこともあるでしょう。初めてコンタクトする相手に仕事を依頼する際は気を使うものです。依頼はメールにするか手紙にするか、こちらの思いを伝えるにはどう書けばいいか、悩ましいところです。
そこで今回は、さまざまな著名人の書籍を手掛けてきた編集者の竹村俊助さんに、「キーパーソンの心を動かすメール・手紙術」を伝授してもらいました。
――著者の方に執筆をお願いする場合、依頼を手紙にするか、メールにするか、使い分ける基準はあるのでしょうか?
竹村:相手がどういう性格で、どんなことに気持ちが動くか。できる限り調べた上で、手紙かメールかを選んでいます。
手紙はエモーショナルな思いを伝えることに向いています。内容を考え、下書きをし、直筆で書いて、投函して...と、届けるまでに時間をかけたことは相手にも伝わりますから。今の時代、LINEやメッセンジャーなど、多くの伝達手段がある中で、あえて手紙を送ることは、それ自体がメッセージにもなります。
対して、メールはロジカルなもの。箇条書きや改行で変化をつけながら、筋道を立てて説明する文章に向いています。
ただ、手紙のエモーショナルさを「重い」と感じたり、メールのロジカルさを「冷たい」と感じたりする人もいますよね。相手がどんなタイプかによって、最適な伝達手段を選ぶようにしています。
――では、手紙を選んだケースについて教えていただけますでしょうか。
竹村:「週刊文春」編集長の新谷学さんに『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)を書いていただいたときは、手紙で依頼しました。スクープを連発する超多忙な日々の中、編集長に仕事術を書いてほしいと。「文春砲の裏側」みたいな企画は、すでにいくつも来ていたらしいんですが、あくまで「仕事術」という汎用的なもの、読者の役に立つものを本にしたかったんですね。
依頼にあたり「新谷さんはどういう人なのか」を徹底的に調べました。雑誌やネットなど、新谷さんが登場したメディアはほぼすべて目を通しましたし、新谷さんに実際に会ったことがある編集者や記者にも聞き込みをしました。浮かんできたのは、情に厚い、エモーショナルな人柄。ならば、手紙を出したほうがいいだろうと。
――手紙はどのようにして新谷さんに届けたのでしょうか。
竹村:当時はダイヤモンド社という出版社に所属していましたが、出版社だからといって連絡先を知っているわけじゃないんです。知り合いのツテを頼ってというやり方もありますが、新谷さんの人柄からすると、小賢しいやり方は好きじゃないかもしれない。これは、正面からぶつかったほうがいいだろうと判断して、「週刊文春」の裏表紙に記載してある、文藝春秋の住所に宛てて手紙を送りました。投函して数日後にお電話をいただいて、企画を快諾してくださったんです。
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――メールで執筆依頼をしたケースについても教えていただけますか。
竹村:『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)を作ったときは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんにメールで依頼しています。このときも佐藤さんについて調べたのち、佐藤さんの会社のウェブサイトからメールを送りました。お忙しい方ですので、自己紹介を書いた後、すぐに本のタイトルを書きましたね。ここで引っかからなければ、もうダメかな...と思いながら。僕はよく「右脳と左脳に訴えかけるといい」と言っているんですが...。
――右脳と左脳ですか...?
竹村:「右脳」はビジュアルによるアピールですね。表紙のイメージをメールに添付して、イメージを共有してもらえたらと。「左脳」は文章の部分。佐藤可士和さんの場合は、「会議に関する本はありますが、打ち合わせに関する本はありません」「無駄な打ち合わせが日本からなくなれば、日本の景気も良くなるのでは...」と、簡潔に思いを伝えるようにしました。
――手紙とメール、それぞれのケースをお聞きしましたが、相手のタイプを把握するコツなどあるでしょうか?
竹村:相手になりきる「イタコ力(りょく)」が必要かなと思います。例えば、宮崎駿さんにアプローチするとしたら、宮崎駿さんになりきって、今考えていることを想像するわけです。次回作のことで頭がいっぱいだろうな、でもこれからの日本を憂いていると思うし、「子供向けにメッセージを伝えましょう」と言ったら響くかな...とか。
もちろん、想像するためには相手のことをよく知らなければなりません。相手のことを調べて、想像して、こういう考えだからこういうアプローチでいこうと、戦略を組み立てる感じですね。
――ビジネスの場面では、なかなか手紙を出す機会がないと思いますが、メールでもエモーショナルな効果を出すことはできるでしょうか。
竹村:プライベートな一面を見せる、というのはどうでしょうか。「実はうちの妻も御社の◯◯が好きで」や「学生時代から御社の◯◯は愛用しておりました」など、個人的な思いを付け加えることで、会社の一員としてではなく、私個人としてもぜひお会いして話を聞きたいんだ、という姿勢が伝わるのではと思います。
あとは、メールで「先日、◯◯様がブログで紹介されていた、おいしいうどんの店に行ってきました!」など、チャーミングさを演出するのもいいですね。あまり繰り返すとあざといのですが、「とりあえず1回会ってみようかな」と思わせたら成功ですから。恋愛だって、どういう人かわからないのにいきなり結婚はしませんよね。1回のメールですべてを決めようとせずに、まずは会って説明するところまでを第一目標にすると、アプローチを組み立てやすいのではないでしょうか。
――依頼をする際、心掛けていること、注意すべきことはありますか?
竹村:なるべく相手に手間をかけさせないことでしょうか。文面は長すぎず、短すぎず。添付資料は最低限にして、スマホで受信してもすべて確認できるようにしています。「参考資料は下記のリンクからダウンロードしてください」というのも、相手の負担になりますから。ゴールにたどり着くまで、メールの往復やファイル操作がなるべく少なくなるよう考えています。
――依頼の文面についてはいかがですか。
竹村:あまり自分を出しすぎると、逆効果だと思っています。特に、手紙は熱くなってしまいがちなのですが、「売れる本を作りたい」「こういうものを作ってきました」「どうしても実現したい」といったアピールは、結局自分のことしか考えていませんよね。
自分語りばかりで相手のメリットを考えないことはもってのほかですし、あまりにこちらの都合を押し出すと「コントロールされるのでは」と身構えられてしまいます。新谷さんに手紙を書いたときは、文章が独りよがりになっていないか、上司に添削してもらいました。プラベートな手紙とは性質が異なるので、第三者に添削してもらうのもいいと思います。
――これも恋愛と同じかもしれませんね。自分語りばかりのラブレターは成功しない気がします。
竹村:そうですね。以前、イタリア人の料理研究家で実業家のベリッシモ・フランチェスコさんと『ビジネスパーソンの誘う技術』(ダイヤモンド社)という本を作ったことがあるんです。ベリッシモさん曰く、「モテない人は過去を見せて、モテる人は未来を見せる」らしいんですね。モテない人は自分のアルバムを見せたがり、モテる人は将来どこに旅をしようか語ると。
「自分はこういう者だ、さぁYESかNOか」と迫っては、まるで敵対関係のようになってしまいます。そうではなくて、「ともにプロジェクトを成功させたい」と、同じ未来にいっしょに向かうイメージで依頼するようにしたいですね。プロジェクトは戦いではなく、共同作業ですから。
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